グリムノーツ二次創作
ガサガサと紙の擦れる音が響く。薄埃の舞う書斎で、カーリーは何をするでもなく、床に腰を下ろしていた。
ふと、無意識に口を開く。
「……喉が渇きました……」
ロキ、飲み物を……と横を向く。が、そこに彼の姿はない。
しゅん、とまた悲しげに顔を伏せた。
ガサガサッ! と一際大きな音を立てて、本の山からタオが頭を出した。
「ったく、この山から紙切れ一枚探しだせなんてジョージも人使いが荒いぜ、手伝いもしねぇし……っと」
カーリーを見て、タオは少々思案しながら声をかける。
「まだ、諦めるなよ。死体が見つかった訳じゃねぇんだ、オレみたいに誰かに拾われて、いつかひょっこり出てくるかもしれねぇだろ」
「………」
「そんな辛気くさい顔すんな、お嬢達を見習え、あいつら、オレがいなくたって元気に旅を続けてるんだ……いつか帰ってくるって信じてな」
「……私は、貴女方とは違います。私には、ロキしか……」
「だったら尚更、生きてるって信じなきゃな」
「………」
妹に投げ掛けるような優しい笑顔で、タオは言う。ついこの前まで敵対していたというのに、何故彼は自分を慰めてくれるのか、カーリーはわからなかった。
ただ、その優しさにほんの少し、ロキの面影を見た。
「……あの」
「どうした?」
「……飲み物を」
「……それくらい自分で持ってこれるだろ?」
「飲み物を、持ってきて頂けないでしょうか」
「………」
「……飲み物」
「わかったよ! 水でいいか!?」
怒ったように本の山から飛び出し、タオはコップを持って書庫の入り口へ向かう。
そんな彼に、どこからか声がかかる。
「タオ、探し物は見つかったか?」
「だーっ! 教団の奴はどいつもこいつもーっ!!」
やけくその様にタオが部屋を出ていくと、入れ違いでシェイクスピアが姿を現した。
「彼の言葉は慰めになったかな、オフィーリア」
「……どこから聞いていたのですか?」
「最初からだ、私はずっと部屋の外からタオが仕事を投げ出さないか見張っていたからね」
何もしていないなら手伝えばいいのに、とカーリーは呆れる。見事なブーメランだった。
「オフィーリア、君はあの男と再会したら、どうするのだ?」
「どうする、とは」
「また混沌の巫女として教団を率いる立場に戻るのか?あの男の復讐の道具として」
「……道具ではありません。ロキは私に尽くしてくれました、世界を混沌に導くのは私を始め教団の総意です」
「オフィーリア、君は人だ、どんなに崇め奉られようが神にはなれない、ただの少女なのだよ」
「……私は、混沌の巫女です。やるべき事が、私にしか出来ない事があります」
ぎゅっと、拳を握る。すらすらと出た言葉、何度も言い聞かせた言葉。
ーーこれは、誰の言葉だろうか。
「……君が、自分の囚われている物語からいつか解放される事を願うよ、カーリー」
空白の書の持ち主は、自らの手で運命を切り開く事が出来るという。
貴方が今歩んでいる運命は、誰が作った物語ーー?
「ーーっカーリー! 水、持ってきたぞ!」
息を切らして、コップを持ったタオが駆け込んできた。
「だ、大丈夫ですか……? 大変お疲れの様ですが……」
「あぁ、井戸がここから正反対の場所にあっただけだ、どうって事ねぇよ」
無茶振りは慣れてるんでな、と笑う。タオはタオで、カーリーに誰かの面影を重ねているのだろう。
「タオ、私の頼み事はどうした」
「これからやるよ! やればいいんだろ!」
再び本の山に飛び込むタオ。ガサガサと紙の束をかき分ける音が響く。
カーリーは暫し悩み、山裾の本を手に取った。
「まだお探しになっていないのは、どの辺りでしょうか?」
「手伝ってくれるのか!? どっかの自称聖人とは大違いだ……イテテテッ! 止めろ、悪かったよ!」
「口答えせずに探せ、私の役者達よ」
バタバタと埃を巻き上げ、先程とはうって変わって賑やかに、書斎の時間は過ぎていく。
何の因果か引き寄せられた3人も、歪ながら、少し笑いの漏れる旅をしていた…。
おわり。