こたつを囲み、ボリボリと煎餅を齧る、そんな午前。
突然バタバタとした足音が廊下から響き、茶の間の障子戸が勢いよく開いた。
「たっ、大変よ皆っ! ライトが、ライトがっ……!」
息を切らし駆け込んできた似鳥を、驚きの目で見つめる一同。直後、彼女の後ろに月の姿が現れた。
黒いノートを抱え、満面の笑みを浮かべる月。
「――我こそはキラ、新世界の神だ!」
「ライトが、夜神のライトになっちゃったのよ!」
「「……はい?」」
高笑いをする月、慌てた様子の似鳥、意味が分からずぽかんとする華藍と風鈴。
何かのスイッチが入っているのか、月は皆の反応などお構いなしに大立ち回りを始めた。
「我は遂に本物のデスノートを手に入れた! 名前を書き込まれた者が死に至る、伝説のノートを! 貴様達の名前は既にこのノートに書き込んである……キラの野望を邪魔する者は皆殺しだー!」
「いやぁぁぁああ死にたくないわー!」
何だろうこのノリ……と若干引いている二人を余所に、月はノートを掲げ、似鳥は悲鳴を上げる。
と、突然似鳥が胸を押さえ、もがき苦しみだした。
「うっ、ぐ……あ……が…がはっ……!」
「に、ニトリ!?」
「あ…が………がくっ」
「ニトリぃー!?」
どさり、とその場に倒れた似鳥。華藍が慌てて駆け寄るが……抑え目にしているが、問題なく呼吸している。
「あーはっはっはっ! 見たかー! これが神の裁きだー!」
「あ、あの……これは一体、何の茶番で……?」
月に問いただそうとした風鈴と、華藍の腕が突かれる。死んだふりをしたまま、似鳥は小さな声で二人に言った。
「……あなた達もやりなさい」
「……が……かはっ……ぁ……バタ、ン……」
「え、えっと……う、く、苦しい……ばたんきゅー」
「ふはははー! これで残るは貴様独りだ、復活の夜空ー!」
死屍累々(偽)の茶の間で、嬉しそうにノートを広げ笑う月。
名指しされた俺は、白いノートを持って悠々と立ち上がった。
「……残念だったな、キラ。チェックメイトだ」
自分の名前と月の名前の書かれたページを、彼女に見せる。その意味を悟った月の顔が、一気に青ざめた。
「デスノートは先に書き込まれた死因が優先される……俺が死ぬのは明後日の二時だ。そしてキラ、いや、ライト……君は一分後に死ぬ」
「そ、そんな……あと少しだったのに……! ぐ、あぁ、がぁっ……くそっ、リューク! リュークはどこだっ……うっ!」
「俺の勝ちだ、ライト。……君がキラでなければ、いい友達になれたと思うよ」
「く、くそっ……キラは、永遠に不滅だ……! がくっ」
「………」
戦いが終わった茶の間を、静寂が包む。
「……そろそろ死んだふり止めてもいいぞ」
「ふぅ……元ネタ知らない非オタ二人に状況説明放棄してぶっつけ本番だったけど、何とかなったわね。あなたもよくあんなアドリブ出来たわね、想定より白熱したいい茶番だったわ」
「……これは一体何なんだ? デスノートとは……」
「えっと……これで大丈夫だったんでしょうか……?」
「二人ともお疲れ、ナイスだったわよ」
次々と起き上がる一同に労いの言葉をかける。そして、似鳥はこの茶番の解説を始めた。
「昨日、ライトと夜空が映画デート行ったじゃない? それで見てきたのがデスノートの新作だったんだけど、映画のグッズでデスノート柄のノート買ってきたのよ。ライトが『本物のデスノートだー!』って大喜びしてたから、ちょっと付き合ってあげたわけ」
「そんなに怖いノートが存在するんですかぁ……」
「フウリン、映画の話だ。まあ、ボクも楽しかったよ」
「ところで、ライトちゃん起きませんねぇ」
「気が済むまで放っておきましょう。あたしもこたつ入れてー、狭いわね、あなた出なさいよ」
「新しいお茶を淹れよう」
「ありがとー」
何事もなかったかのように日常に戻る茶の間。一人根気よく倒れたままの月だったが、そのお腹から悲痛な声が上がった。
ぐぅ~。
「ああ、もうそんな時間か。昼ごはんの支度をしなければ」
「そうね、今日はライトの好きなオムライスにしましょうか」
「ほんと!? ……こほん、さあ、早く我に生贄を捧げよ!(お腹空いたー、早くご飯食べたいー!)」
「ぼ、僕もお手伝いしますぅ」
おわり。